Bar 宵闇亭 TRINSIC OF THE DEAD ~Diary of Arthur~ FINAL 忍者ブログ
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7月24日
トリンシックから悪い知らせが入った。
今朝早くに北区のバリケードが破られ、大量の感染者の侵入を許してしまったのだ。
すぐ他の隊が駆けつけて再びバリケードを築いたお陰で、橋は渡らせずに済んだそうだが……あまりに急なことだったゆえに、中に多くの市民を取り残してしまった可能性が高い。
指揮官たちを責めるのは筋違いだろう。
より多くを守るために必要な判断だったのだ。
だが残された市民たちは、必ず助け出さねばならない。
これから急ぎ冒険者を募り、大規模な救出作戦を行うとのことだ。
貴重な時間をロスしてしまうが、バリケードに集まる感染者の数は加速度的に増えており、これ以上兵士を割いては肝心の拠点を守りきれない。
不幸中の幸いに、既に各地に火炎薬の配備は済んでいる。
取り残された人々が、それらを有効に使って身を守ってくれるのを祈るしかない。
彼らを救える唯一の希望がワクチンだが───
ここにきて、研究は急に行き詰まりを見せている。
オフィリオ氏や他の錬金術士が何度薬を精製しても、あのオリジナルと同じ効果が出ないのだ。
これまでが順調だった分、失望は多い。
実験が失敗する度に、アルバートは血を抜かれ傷から組織を採取されていく。
まったく、ここの連中は相手が瀕死だろうがなんだろうが、ちっとも容赦などしない……!
───ダメだ、ひどく気が立っている。

(グチャグチャと書き散らした痕)
(やけに上手い子犬の絵)
(ハイデン、という名前)
(そしてそれらのすべてに大きく☓がついている)

しまった!
明日は王都で評議会が開かれる日だ。
スペンサーがいないとすぐ予定を忘れてしまう。
幸いここからムーンゲートはそう遠くない。
明日の朝早く発てば間に合うだろう。

7月25日
王都で評議会に出席してきた。
参列者の数は少なかったが、私の知る限り初めてすべての首長が揃う評議会となった。
そんな目出度い場で、国王陛下に暗い報告しかお伝えできない我が身が心苦しかったが、嬉しい収穫もある。
なんと研究の行き詰まりを聞いた陛下が、手助けを申し出て下さったのだ!
陛下の元には数多くの優れた錬金術士がいる上に、陛下自身様々な研究を発表している超一流の錬金術士であられる。
恐れ多いことだが、この御温情に喜んで縋らせて頂こう。
会議が終わってすぐライキュームへトンボ返りし、大急ぎでこれまでの資料をまとめて王室広報官へお届けした。
このように民を憂えてくださる主君を得られた我々は、なんという幸せ者だろう。
……とはいえ、まだ事態は好転したわけではない。
王都へ来られた騎士団のスペクター殿とガレット殿から、トリンシックの様子を聞いた。
通信で伝え聞くより、現状は遥かに悪いらしい。
増え続ける感染者からバリケードを守ることで手一杯で、避難した市民のケアや、物資の補給などにも支障が出始めているようだ。
一刻も早く事態を収拾せねば、トリンシックは内部から崩壊してしまうかもしれない……。
夜半、レイからいよいよアルバートが危ないかもしれないと聞き、慌てて駆けつけた。
彼はもう呼吸が浅く、瞳孔も開きかけていた。
だが私の姿を認めると、残った左手で私の手を力強く握り締めた。
恐ろしいまでの力だった。
こういうものには覚えがある───何度も、何度も。
私に何か伝えたいそぶりを見せたが、あいにくそのまま意識を失ってしまった。
もう今夜はここを離れず、ずっと彼の側についているつもりだ。

7月26日
アルバートが死んだ。

……困ったな、何から書けばいいだろう。
まず、トリンシックの市民救出作戦の指揮は騎士団のリンス殿、そして補佐にスラウ殿が選ばれた。
二人とも責任感があり、統率力に優れた騎士だ。
彼らなら冒険者たちを上手くまとめ、作戦を遂行することができるに違いない。
現在募集を見た冒険者が、少しずつトリンシックに集まりつつあるようだ。
最終的にどれほど集まるかはわからないが、数は多ければ多いほど成功率が上がる。
トリンシックの英霊が、どうか彼らと助けを待つ市民たちを守ってくださるよう。
ワクチンの制作も、再び軌道に乗り始めた。
これも陛下とその配下の錬金術士たちがコミュニケーション・クリスタルを通じ、これまでの研究の粗や新しい発想を事細かに送ってくれるおかげだ。
ライキュームと刺激を与え合い、新しい方向からのアプローチを試みているらしい。
今度こそ成功して欲しい。
もうこれ以上の悲劇は懲り懲りだ……。
そして、アルバート。
彼の遺体はこれから解剖され───ワクチンの材料となる筈だ。
最期の最期まで、トリンシックに身を捧げた男だった。
亡くなる少し前、意識を取り戻したアルバートはもう一度言った。
ほとんど吐息のようなもので、とても聞き取りづらかったが。
あんたが誰か知っている、と。
以前からそんな気はしていた。
彼が私を見る目には、どことなく嘲うような、探るような色があったから。
「あんたの子犬を捨てに行かされたのは俺だった」とアルバートは言った。
もう覚えてないだろうけど、とも。
冗談ではない。
あの時私は死ぬほど泣いたのだ。
あまりに暴れて父親に引っ叩かれて、惨めに床に這いつくばりながら、まだ名前もつけていなかったあの子を抱いていく少年を、全身全霊で死んじまえと呪いながら睨んでいたのだ。
あれから父は死んだし、アルバートも死んだ。
私には案外呪術師の才能があるのかもしれない。
アルバートにもう一度、何故私を庇ったのか聞いた。
私が誰か知っていて、どうしてそんな真似をしたのか単純に不思議だった。
彼は、あんたが聖騎士を呼び戻すと言ったから、と答えた。
それから、もう氷のような手で私の手に力を込めた。
嫌でも思い出した。
私の手を握って死んでいった者たちの、冷たく濡れた祈りを。
いくつもいくつも、何度だって託されてきた。
マーティンも、アーサーも、グレン団長も、こうやって私を生かしてきたのだ。
だから私は今も呼吸をするのだ。
私の心臓は彼らの願いで、私の意志は彼らとの約束でできている。
程なくして、アルバートは死んだ。
私は彼のこともけして忘れないだろう。
彼の望みは私の一部になったのだ。
トリンシックにかつての名誉を取り戻す日まで。
その為にだけ、私は生きている。

───あぁ、早くなにもかもを終わらせてトリンシックへ帰りたい。



イベント【TRINSIC OF THE DEAD】 
いよいよ明日夜10時より開催!

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次回のトリンシック市民会議
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出雲トリンシック パラディン島
訓練施設内会議場にて開催

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蜘蛛城脱出大作戦!!

2016年8月7日(日)夜10時より
市政ストーン前集合
詳細は コチラ
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