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【密輸組織、一斉検挙 連続誘拐事件に関与か】
トリンシック騎士団は2月16日深夜、密輸や誘拐に関与した疑いで、商人に偽装してトリンシック港に停泊していた犯罪グループの一斉検挙を行ったと発表した。
すでに25名が拘束され、所有する船舶や倉庫からは大量の武器や資材が押収されている。
問題の組織は、近年バッカニアーズデンやニュジェルムで勢力を広げている海賊と取引があり、武器や兵器の密輸のほか、トリンシックで頻発している失踪事件にも関わりがあると見られていた。
容疑者たちはトリンシック監獄に収容後、余罪について詳しく調査される。
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ある男は言った、自分を許さなかったこの街が憎い、力を持つものが好きに振る舞って何が悪いのかと。
ある女は言った、愛しい男を死なせたこの街が憎い、名誉など命と較べてなんの価値があるのかと。
立場も年齢も言い分も様々な、彼らにただ1つ共通するのは、トリンシックに憎しみを抱いているということ。
些細なものでも構わない、憎悪は伝染する、俺の体を巡った黒い一滴が、彼らの小さな不満を際限なく肥大させる。
時に偽りの情報を、時に別の誰かを囮に差し出し、俺達は執拗な捜査を巧みに掻い潜り続けた。
少しづつ増える適応者、あらゆる場所に紛れ込む俺達の悪意、まさしく地下に根を張るように、この街を病ませる毒を広げていくのは楽しかった。
連日、深夜まで明かりの消えない市庁舎の窓を見ながら、俺は静かに夢想する。
いずれこの街に、抱えきれないほどの憎悪が溢れかえった時。
その時こそトリンシックは、内側から決壊する。
「───そこで何をしている?」
隠し扉の前で聖騎士の一人に見つかってしまったのは、完全に油断からだった。
ピカピカのプレートメイル、絹のチュニュック、そしてトリンシックの紋章を染め抜いた紫の盾。
俺は一瞬、ほんの一瞬、その輝かしい姿に言葉を失ってしまい、それは相手に致命的な不信感を与えるのに十分だった。
「こんな夜更けに出歩くなど、どんな理由あってのことだ? ……いや、今は答えなくていい、 幸いパラディン島はすぐそこだ。詳しい話は、我々の詰め所でゆっくり聞かせてもらおう」
思えばこの時点で決断しておけば良かった。
連れて行かれた立派な建物は、深夜にも関わらず十数人もが賑やかに過ごしていた。
どれだけあの制服に憧れただろう、どれだけこの島に立つ日を夢見ただろう。
聖騎士たちはみんな若々しく、未来があり、理想に燃えて、何もかも俺とは違っていた、
あくまで礼儀正しく、だが高圧的に質問を繰り返す男。それを横で諌め、呆けた俺を気遣う女。見張り台に立つ男女が笑い合う声。部屋の隅で誇らしそうに盾を磨く男。仮眠だろうか、離れたベッドで豪快にいびきをかく男。
……あーあ、そうだな、そうだろうよ。
し あ わ せ な ん だ な ぁ 、 お ま え た ち は
腹の底から、ふつふつと煮え立つような気分だった。
「どうしたの、もしかして具合でも悪いの?」
優しく触れてきた女の喉笛に、思い切り喰らいつく。
すぐさま叫び声を上げて飛びかかってくる男は、力任せに首を捩じ切って、腰に下げた高そうな剣を奪い取ってやる。
俺は不幸だから。
俺はずっと暗がりを這いずって、何一つ報われず惨めなままだから、お前らの眩しさに耐えられない、俺が行けなかった場所で笑うお前らが、羨ましくて妬ましくて、憎くて殺したくてたまらない。
それからはもう、喜劇のように。
次々駆けつける騎士たちを片っ端から斬りつけて突き刺して細切れにして引き裂いて叩き潰して噛み千切って引きずり出して踏みにじって。
幸せな奴は、幸せなまま死ねばいい。
天井までベチャベチャに汚す血と臓物の中で、俺はゲタゲタと笑った、なんだ、なあああんだ、全然大したことないじゃないか、こんなザマで、一体何を守れるっていうんだ?
昔の俺なら、軽く100回は殺されただろう、でも今の俺は刺されても切られても痛みはなく、傷はみるみる治り、腕力は化け物じみて強くなっていた。
いや違う、もうとっくに化け物なんだっけ。
俺は自分の腐り始めた腕を見て、ひどく虚しくなった、レクイエムの水薬を飲まないと、俺達の表皮はすぐに腐りだしてしまう。
聖騎士たちの中に、臆病者は一人もいなかった。
最期まで剣を握り締めた、愚かだが誇り高い死に様だった、俺にはとてもできないような。
あのアーサーでない誰かは、悲しんでくれるかなぁ。
真っ赤な部屋を後にして、とぼとぼと暗がりへ帰りながら、俺はそのことだけが気がかりだった。
❖トリンシック・トリビューン 2015年2月22日
【パラディン島に襲撃 夜勤の聖騎士が全員惨殺される】
連日続く失踪事件に怯えるトリンシックで、またも大事件が発生した。
本日未明、パラディン島聖騎士詰め所にて夜勤を行っていた聖騎士10数名が、全員惨殺体となって発見された。
現場は凄惨を極め、被害者たちは「何か」と激しく争った形跡があるという。
現在パラディン島は封鎖され、詳しい調査が行われている。
アーサー市長は夕刻から行われた葬儀に参列し、その後王都での評議会へ赴いた。
代理人として記者会見を開いたヘラルドのスペンサー氏によると、発見された遺体には昨年トリンシックで起きた大規模呪術感染事件、通称「ゾンビ事件」との関連が見られるという。
対策本部は今夜からトリンシック中に戒厳令を敷き、市民の外出、及び城塞内の出入りを厳しく制限するとのこと。
一刻も早い事件解決が待たれる。
以下、死亡者名簿(アルファベット順)
アリシア=シルバーリーフ(19)
バルド=テイラー(24)
カール=ローエン(22)
:
:
ジョン=バルフォア(21)
イベント【TRINSIC OF THE DEAD 2 ~ From Darkness ~】
── Season 1 Story ── Diary of Arthur
~Diary of Arthur~ 1
~Diary of Arthur~ 2
~Diary of Arthur~ 3
~Diary of Arthur~ 4
~Diary of Arthur~ FINAL
【水夫が1名失踪 事故の可能性も】
1月6日午後8時頃、トリンシック港に停泊中の「青の貴婦人号」の乗組員1名が、出港の時刻になっても船に戻らず、船長から捜索願いが出された。
問題の乗組員はウォレス=レイダー氏(46)
失踪が発覚する30分前には港で姿が確認されており、トリンシックガードは事故の可能性もあると見て、慎重に捜査を進めている。
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レクイエムはこの街をどうにかしてやりたいらしい。
もちろん悪い意味でだ。
「以前の事件は、本当に偶然でね」
俺の腕を傷つけて、ゆっくり滴る妙に黒っぽい血を採取しながら、レクイエムが言う。
「実験途中の一匹が逃げたせいで、思わぬ集団感染が起きてしまった。予想以上の被害が出たのは結構だが、逆に警戒心を抱かれて動きづらくなったし、彼らに知識と経験を与えたのも失敗だった」
だらだらだらと流れ続ける血、最近ようやく気づいた、俺は痛みを感じない。
しかも傷もやたら早く治るもんだから、レクイエムは何度も何度も、まるで髪でも梳くように、俺の腕をナイフで撫で続けなければいけなかった。
「あれで我々も学んだよ。腐った脳味噌と食欲しかない化け物ではダメなんだ。もっと密かに、もっと理知的に……もっと狡猾にならないと」
やがてフラスコ一杯に溜まった、ほとんどタールのように嫌な色をした血を、レクイエムはうっとりと眺めた。
「いい色だ、これならきっとより素晴らしい薬が───他人の心まで黒く腐らせるような、暗黒の一滴が作れるだろう」
その眼差しは狂気そのもの、このキチガイ野郎に一体何があって、こんなにトリンシックを恨むはめになったのかは知らないし、知りたくもない。
忘れられた下水道というのは、潜むにはもってこいの環境だった。
数少ない出入口は殆ど人目に触れず、頑丈な石組みは、中でどれほど泣き喚こうが叫ぼうが、殆ど外に漏れることはない。
俺達は奴隷商人から買うだけでなく、身元の探しにくいジプシーや冒険者はもちろん、時には街中から人を拐かした。
そうやって連れ込んだ連中は、レクイエムの惨たらしい実験に使われる。
多分昔の俺なら、その場で吐いたり目を覆ったりしただろう。
でも今の俺に大切なのは、これがいずれあの紫の目の男を苦しめることに繋がるという一点しかない。
俺はむしろ喜んで協力した、進んで血を流し、人を攫い、証拠を消して、目の前でヒィヒィ泣く美味そうな肉を食い散らかしたい衝動すら我慢した。
真っ黒な薬を注がれた連中の反応は様々だ。
内臓ごと吐き戻す奴、狂い死にする奴、生きたまま腐って、アウアウ呻くしかできなくなる奴。
そしてごくごく稀に、【適応】する奴。
適応者は、普通の人間のように知性を保つことができた。
奴らは一も二もなくレクイエムの話に共感し、賛同し、俺達の追従者になった、あんまり簡単で、空恐ろしいくらいに。
洗脳でもしているのかと聞くと、すべて君のお陰さ、とわけのわからない答えが返ってきた。
「ウィルスは呪いと結びつき、他人に伝染させる。最初に選んだのは狂気だった、でもこれは失敗した。……今、私達が広めているのはなんだと思う?」
ふふっとレクイエムは笑う、内緒話をする子供のように。
「憎悪だよ」
それで俺は、ようやく理解した。
俺はずっとこの故郷が憎かったんだ。
俺を受け入れなかった、俺だけを認めなかった、俺の友達を奪った、このトリンシックが。
滅んでしまえと、願うくらいに。
❖トリンシック・トリビューン 2015年1月19日
【連続失踪事件に続報 4人目の犠牲者か?!】
トリンシック市庁舎は今日、再び行方不明者が出たと発表した。
行方が分からなくなっているのは、ケッグ・アンド・アンカーのウェイトレス、アンジー=デイビスさん(25)
17日の深夜に仕事を終えて店を出たが、翌日無断欠勤したのを店長が不審に思い、ガードポストへ連絡した。
アンジーさんが家に戻った形跡はなく、帰宅途中に何らかの事件に巻き込まれたものと思われる。
今月頭に起きた【ロディ君行方不明事件】に続き、これで市民の失踪は4件目。
トリンシックガードは、犯罪組織による誘拐とみて捜査を続けているが、犯人につながる手がかりがまったく見つからず、捜査は混迷を極めている。
イベント【TRINSIC OF THE DEAD 2 ~ From Darkness ~】
── Season 1 Story ── Diary of Arthur
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~Diary of Arthur~ FINAL
【都市協議会 各都市に1100万gpの寄付】
12月28日に王都にて開催された評議会で、ブリテインのシエロ市長より、都市協議会名義で各都市に1100万gpの寄付を行うと発表があった。
出資者の名は伏せられているが、先日行われたレアフェスタで財産の一部を処分した富豪からのものとされている。
聖騎士団設立で資金難に喘ぐトリンシックには、これ以上ない朗報だ。
出立時は暗い顔で、他都市への借金の可能性も匂わせていたアーサー市長。
「これで安心して年越しができる」と、満面の笑みでの帰還となった。
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レクイエムが持ってくる古新聞を読まされるたび、俺の中で何かが重く沈殿していく。
アーサー、聖騎士団が復活したんだって? おめでとう、今幸せか?
アーサー、大金が転がり込んだんだって? おめでとう、今幸せか?
アーサー、アーサー、だけど俺は幸せじゃない、お前が明るいところで笑ってる間、俺は相変わらず暗いところで、ただわけのわからない狂人に妙なものを飲まされて、無気力に生きてるだけだ、なぁアーサー。
俺はどこで間違えたんだ?
お前に頼ってトリンシックで出直そうなんて思ったのがいけなかったのか?
あの日お前に会おうなんて思わなければ、俺は今こんな目に合わずにいられたんじゃないのか?
言っていいかアーサー、俺は今すごく酷いことをお前に言いたい、でもお前は俺の一番の友だちだったから、誰も捕まえられない俺に最初に捕まってくれるのはいつもお前だったから、だから俺は我慢してるんだ。
ここはトリンシックのずっと地下、誰も覚えてないような元下水道だとレクイエムは言った。
連れて行かれた古びた階段の上には、確かに半ば朽ちた蓋があって、その隙間からほんのすこしだけ空が見えた。
光だ。
昔は当たり前のように浴びていたのに、今はどんな温度かも忘れてしまった光だ。
レクイエムは上に出てみてもいいと言う、君は前よりずっとマシな姿になったからと。
なぜかはよく分からない、でも最初の頃自分でも気味悪いほど爛れめくれていた俺の皮膚は、今は確かにマシになってきていた、だからといって、俺はどうにも決心がつかなくて、日がな一日、あるいは何日も、その下に突っ立っていた。
そこへコトンと何かが落ちてきた。
綺麗な虹色の貝殻だ、そういえばトリンシックへ戻ったのに、俺はまだ一度も海を見ていない。
見上げていた蓋がズリズリ動いて、にゅっと細い足が生えた。
白くて柔らかそうな、強烈に美味そうな、素晴らしいごちそう。
どういうわけかそろりと降りてきた小柄な生き物に、俺は脳味噌が反応するより早く飛びついて、下に引きずり下ろしていた。
むしゃりと一噛みすれば、信じられないほどジューシーな味がした、肉が、久々の肉がものすごい叫びをあげて壁中にわんわんと反響するが、気にせずにむしゃり、むしゃりと齧りついていく。
ああああ、美味しい美味しい美味しい、どうしてこんな美味しいもののことを忘れていたんだろう。
だが何回か食い千切ったところで、急に肉は不味くなってしまった。
無理やり食べようとしても、ちっとも食欲が湧いてこない。
「死体では意味がないんだ。君たちの食欲は、感染拡大の為の擬似欲求にすぎないからね」
いつの間にかレクイエムが後ろにいた。
「やはり君のウィルスは特別だな。感染の兆候が見られない……定着と引き換えに無差別な感染力を失ったか。これをもっと進化させることができれば……」
ブツブツと呟く声を無視して、死体と言われた肉を見下ろす。
小さな男の子だった。
ほとんど骨だけの足、涙を流したまま見開いた緑の目、なんだか小さい頃のアーサーに似ているな、と思って、そう、思って、
思い出した。
「アーサーじゃない」
「え?」
レクイエムを押しのけて、下水道を駆け戻る。
一山ほども溜まったトリンシック・トビューン、そのうちの何枚かにでかでかと載った顔、トリンシック市長、アーサー=ログレス。
そいつの目は紫色だ。
でも違う。
アーサーは、俺の幼馴染のアーサー=ログレスは、緑の目だった。
「アーサーじゃない、アーサーじゃない」
「いったいどうしたんだね」
後を追ってきたレクイエムに、古新聞を突きつける。
「こいつはアーサーじゃない、名前を騙った偽物だ」
「……なんだって?」
レクイエムが珍しく慌てた仕草で、それを奪い取った。
ふいに笑いたくなった、そうか、そうだ、もう我慢しなくてもいいんだ。
げたげたげたと笑いが込み上げてくる、こいつがアーサーじゃないなら、じゃあ俺は言ってもいいんだ、ずっとずっと腹に貯めていたことを、大声で言ってもいいんだ。
アーサーアーサーアーサー。
俺はお前が大好きだったよ、そしてお前はこれからも変わらず俺の親友だ。
「───殺してやる!!」
なぁお前、名前も知らない紫の目をしたお前、俺は、
「殺してやる、お前をきっと殺してやる!!」
俺はお前が憎くて堪らない!!
俺が叫んで顔を掻き毟るのを、レクイエムはそれは嬉しそうに、それはそれは愉しそうに笑って見ていた。
❖トリンシック・トリビューン 2015年1月4日
【6歳男児行方不明 遊びに出たまま帰宅せず】
トリンシック東地区に住むロディ=スミス君(6)が、遊びに出かけたまま行方不明になっていることがわかった。
ロディ君は1月3日午後、友人3名と海岸で貝を拾うと言って家を出たが、夜半を過ぎても帰宅せず、心配した両親がガードポストへ訴え出た。
友人たちの証言では夕方に東城壁裏手の浜辺で別れ、以後の足取りが掴めていない。
トリンシックガードは密輸業者による誘拐も視野に入れ、市内の探索のほか、港に停泊した船の貨物も調査している。
ロディ君は金髪に緑の目、紺色のチュニックを着用。
もしロディ君と思しき人物を見かけた方は、トリンシック東ガードポストまでご連絡を。
【聖騎士見習い200名、ダスタードで演習へ】
詳細な日時は発表されていないが、今月末、ダスタードにて聖騎士見習いの大規模演習が行われる。
現在500余名いる聖騎士見習いの中から、特に成績優秀な者が選抜されるとのこと。
引率は武術指南役として名高いケイン教官。
個人の武威はもちろん、数隊に分けての作戦遂行能力、団結しての集団戦闘能力などを測る。
今回の演習は、聖騎士見習いの壁外演習としては過去最大の規模。
巷では聖騎士昇格への最後の試験ではないかと囁かれており、続報に期待が寄せられている。
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肉はいつ頃からか見つからなくなった。
空腹で、空腹で、俺は空っぽなまま、もう動けなくなってずっと経つ、何日か、何ヶ月か、あるいは何年かすら、わからない。
目に入るのは闇、闇、真っ暗で、自分の手さえわからない、ただ耳に入る音だけが、誰かの生きている、時に笑い、時に怒鳴りあう、羨ましい、妬ましい、人生の音だけが、こうして這いつくばる俺を、俺の惨めな存在を、打ちのめすように何度も何度も、思い知らせる、思い出させる。
輝くものを見たのは、もうどのくらいぶりだろう。
それは遠くから、ゆっくりとやってきた。
「これは驚いた」
温かいオレンジの光、火、あれはなんだっけ、そう、蝋燭、と、それを持つ人間。
人間だ。
「こんなところでまさかの拾い物とは。しかも……腐敗が殆ど進んでいない」
近づく炎をじっと見ていると、目が焼けるように傷んだ。
俺が呻いて目を瞑った時、蝋燭の持ち主はものすごい勢いで駆け寄ってきた。
「あぁ!! まさか君は、そうか、そうなんだな、ついに【適応したのか】!!」
引きずりあげるように抱き上げ、抱きしめられる、人間、肉、肉肉肉、なのにおかしい、全然美味そうじゃない、どうしてだ?
「可哀想に、さぁもう大丈夫だ。口を開けてこれを飲みたまえ、今よりずっとマシになるはずだ」
顎を上げて何かが流し込まれる、味のしない、だが火のように燃える、喉に、腹に、脳に火が回って、頭に巣食ったヘドロが削ぎ取られるような、脳が脳が脳が、溶けて、
「名前は思い出せたかい」
「わからない」
「体に不自由なところはあるかね」
「別にない」
そいつは、実に献身的に俺を労った。
光があるだけで世界は様変わりする、俺がずっと過ごしてきた闇は、見なければ良かったと思うくらい劣悪な場所だった。
汚水とヘドロとカビとサビ、虫、ゴミ、腐った何か。
気がつけばそこに様々なものが持ち込まれて、俺は以前より少しだけマシな境遇にいる。
「あんたは誰なんだ」
黒いローブで体を覆う男に問いかける、近頃ようやく声らしい声が戻ってきた。
一日に数回、俺に水のような何かを飲ませる以外、男は怪しげな器具と薬品を弄り、錬金術めいた何かを繰り返している。
「私はね、残響なのだよ」
振り返らず、手を止めず、男は答えた。
「あの日死んだ仲間たちの声が私を作っている。無念と怨嗟を繰り返し繰り返し歌い続ける彼らを、安らかに送るために───その為に私は生きている」
「
「そうだな、そう名乗ろう。私はレクイエム、彼らに、そしてこの街に、終わりなき詩を捧げる者だ」
この街に、トリンシックに?
問い返そうとした時、遥かな頭上から華々しい音楽が響いてきた。
ドラム、トランペット、その他名前もよく知らない生の演奏の音。
久々に耳にした、けれど記憶の底に焼きついている旋律。
「素晴らしいな、聖騎士のマーチだ」
レクイエムはどこか嬉しそうに言う、だが俺は咄嗟に耳を覆って縮こまった。
いやだ、この旋律はいやだ。
もう聞きたくない、聞けば思い出してしまう、何度も何度も回想しては一人で蹲った、あの日の、あいつらの背中を見送った、俺の一番の挫折の記憶。
俺は受からなかった。
同じように育って同じように遊んだ幼馴染たちのなかで俺一人。
俺だけは、聖騎士になれなかった。
❖トリンシック・トリビューン 2014年11月15日
【聖騎士、11月17日からトリンシックに復活】
トリシック市庁舎は今日、11月17より聖騎士団を新たに結成し、市内に配属することを発表した。
7年前のミナクス侵攻で壊滅して以来、トリンシックには長らく聖騎士の不在が続いていたが、このたび一年間の厳しい訓練に耐えた聖騎士見習い100名が、正式に聖騎士としての名誉を賜る。
聖騎士の育成資金問題で批判を受けることも多かったアーサー市長。
「感無量だ。聖騎士団の復活で、トリンシックの治安と名誉はより向上するだろう」とコメント。
聖騎士叙任を控えた人物の一人、ジョン=バルフォア氏(21)にもインタビューを行った。
「聖騎士になるのは子供の頃からの憧れでした! あそこまで訓練が厳しいとは思いませんでしたけど(笑) 何度ケイン教官に尻を蹴飛ばされたかわかりませんよ。でも、ついにこの日が来たと思うと……頑張って良かったと思います、本当に」
聖騎士たちは16日午前に叙任式を受けた後、トリンシック市内で復活パレードを行う。
【漁師ギルド【サンズ・オブ・ザ・シー】にて異臭騒ぎ】
8月31日午後2時頃、トリンシック港地区で船舶の点検を行っていた水夫数人が「水辺に酷い異臭がする」「吐き気がする」などと訴えてヒーラーギルドへ搬送された。
トリンシック衛兵が現場を調査したところ、海に流れ込む排水の一部に濁りが見られ、辺りには酷い腐敗臭が漂っていたという。
一時的な処置として、問題の排水口から出る水を汚水槽へ流す工事が行われた。
現場は漁師ギルド【サンズ・オブ・ザ・シー】の正面。
トリンシック市庁舎は、海産物加工の際に出る生ゴミや汚水の処理が不十分だったのではないかと考え、近く同ギルドに行政指導する方針。
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足元を肉が走り抜けた。
すかさず捕まえ、口いっぱいに頬張る。
ぎゅっと噛み潰すと柔らかい袋がぷちっと弾けて、舌に広がる少し苦い液体。
肉の味はあまり良くない、表面はごわついて生臭く、中身の美味しいところはちょっとしかない。
それでもゆっくり噛み砕いて、小骨がポリポリ崩れていく食感を楽しむ。
この一瞬だけは、腹も心も満たされる。
グチャグチャと下品に音を立てながら、じっと宙をみる。
どうしてこんなところにいるんだっけ。
暗闇の中で膝を抱え、俺は繰り返し考える。
どこもかしこも闇。
目の慣れる余地もないほどの闇だ。
かといって静かじゃなく、あたりには常にバチャバチャチョロチョロと水音がする。
それに肉たちのキィキィいう鳴き声、走り回る足音。
冷たくてじっとりした壁に耳をつけると、たまに聞こえてくる誰かの声、かもしれない何か。
音が聞こえて良かった、もしここが無音の世界だったら、俺はとっくに頭がおかしくなってただろう。
食べるところのなくなった肉の残骸を、ぺっと吐き出す。
途端にやってくる空腹感。
ほんの一時でも、口の中が空になるのは耐えられない、肉を、肉を、肉を齧らせてくれ、あったかい命を、でないと何も考えられなくなる。
残骸の前でじっと待っていれば、他の肉が群がってくると分かったのはラッキーだった。
そいつらを両手で一つづつ捕まえて、頭から、ちょっとづつ節約して噛みちぎっていく。
みみっちい食べ方だ、俺はいつもそうだ、努力しても得られるものは少ししかなく、大きな口を叩いてトリンシックを出て行った後も、毎日の食事は硬くなったパンや、肉のないスープや、時にはルナの物陰で、豪邸の残飯を漁ったこともあった。
最初から失敗していたんだ。
俺だけいつも鬼だった、俺だけ一番に怒られた、俺だけ試験に受からなかった、俺だけ街を出て行った、でも俺だけ生き残った、つもり、だったのに。
トリンシック市長、アーサー=ログレス。
ミチミチと肉を握り締めて、捻り潰しても収まらない。
なんでだ? なんでこんなに違うんだ?
お前はきっと立派な官邸で、ブタの丸焼きの一番いいところだけを食べて、ふかふかの絹のベッドで眠っているのに、どうして俺はこんなところで、こんな真っ暗なところで、生臭い肉を惨めに齧って、齧って齧って、それでも満たされないままでいなきゃいけないんだ?
誰か教えてくれ、俺はどうしてこんなところにいるんだっけ?
壁に耳を寄せる、うんと遠くから微かに伝わる、足音、笑い声、楽しそうに、きっと明るいところで。
ああああ、いやだ、いやだ。
もう、暗がりにいるのはいやだ。
❖トリンシック・トリビューン 2014年9月19日
【トリンシックでのネズミ被害、前年比8割減】
9月19日、トリンシックヒーラーギルドは、今年のネズミ被害報告が大幅に減っていると発表した。
トリンシックでは船舶の貨物や海産物を狙うネズミの被害が年々増加傾向にあり、関係者の悩みの種となったが、今年の夏に入って一気に激減したという。
ネズミ間での疫病などが原因ではないかとされる。
ヒーラーギルドでは安全のため、もしネズミを見かけても、けして素手等で触れないよう注意を促している。
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出雲フェルッカ デスパイス内
毎週土曜 夜11時~2時
次回のトリンシック市民会議は
2016年8月21日(日)夜10時
出雲トリンシック パラディン島
訓練施設内会議場にて開催
イベント予定
夏の益荒男祭り
蜘蛛城脱出大作戦!!
2016年8月7日(日)夜10時より
市政ストーン前集合
詳細は コチラ