Bar 宵闇亭 【TRINSIC OF THE DEAD 2】 ~I'm in the Darkness~ 4 忍者ブログ
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❖トリンシック・トリビューン 2014年12月28日
 【都市協議会 各都市に1100万gpの寄付】
  12月28日に王都にて開催された評議会で、ブリテインのシエロ市長より、都市協議会名義で各都市に1100万gpの寄付を行うと発表があった。
  出資者の名は伏せられているが、先日行われたレアフェスタで財産の一部を処分した富豪からのものとされている。
  聖騎士団設立で資金難に喘ぐトリンシックには、これ以上ない朗報だ。
  出立時は暗い顔で、他都市への借金の可能性も匂わせていたアーサー市長。
  「これで安心して年越しができる」と、満面の笑みでの帰還となった。

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 レクイエムが持ってくる古新聞を読まされるたび、俺の中で何かが重く沈殿していく。
 アーサー、聖騎士団が復活したんだって? おめでとう、今幸せか?
 アーサー、大金が転がり込んだんだって? おめでとう、今幸せか?
 アーサー、アーサー、だけど俺は幸せじゃない、お前が明るいところで笑ってる間、俺は相変わらず暗いところで、ただわけのわからない狂人に妙なものを飲まされて、無気力に生きてるだけだ、なぁアーサー。
 俺はどこで間違えたんだ?
 お前に頼ってトリンシックで出直そうなんて思ったのがいけなかったのか?
 あの日お前に会おうなんて思わなければ、俺は今こんな目に合わずにいられたんじゃないのか?
 言っていいかアーサー、俺は今すごく酷いことをお前に言いたい、でもお前は俺の一番の友だちだったから、誰も捕まえられない俺に最初に捕まってくれるのはいつもお前だったから、だから俺は我慢してるんだ。

 ここはトリンシックのずっと地下、誰も覚えてないような元下水道だとレクイエムは言った。
 連れて行かれた古びた階段の上には、確かに半ば朽ちた蓋があって、その隙間からほんのすこしだけ空が見えた。
 光だ。
 昔は当たり前のように浴びていたのに、今はどんな温度かも忘れてしまった光だ。
 レクイエムは上に出てみてもいいと言う、君は前よりずっとマシな姿になったからと。
 なぜかはよく分からない、でも最初の頃自分でも気味悪いほど爛れめくれていた俺の皮膚は、今は確かにマシになってきていた、だからといって、俺はどうにも決心がつかなくて、日がな一日、あるいは何日も、その下に突っ立っていた。
 そこへコトンと何かが落ちてきた。
 綺麗な虹色の貝殻だ、そういえばトリンシックへ戻ったのに、俺はまだ一度も海を見ていない。
 見上げていた蓋がズリズリ動いて、にゅっと細い足が生えた。
 白くて柔らかそうな、強烈に美味そうな、素晴らしいごちそう。
 どういうわけかそろりと降りてきた小柄な生き物に、俺は脳味噌が反応するより早く飛びついて、下に引きずり下ろしていた。
 むしゃりと一噛みすれば、信じられないほどジューシーな味がした、肉が、久々の肉がものすごい叫びをあげて壁中にわんわんと反響するが、気にせずにむしゃり、むしゃりと齧りついていく。
 ああああ、美味しい美味しい美味しい、どうしてこんな美味しいもののことを忘れていたんだろう。
 だが何回か食い千切ったところで、急に肉は不味くなってしまった。
 無理やり食べようとしても、ちっとも食欲が湧いてこない。
「死体では意味がないんだ。君たちの食欲は、感染拡大の為の擬似欲求にすぎないからね」
 いつの間にかレクイエムが後ろにいた。
「やはり君のウィルスは特別だな。感染の兆候が見られない……定着と引き換えに無差別な感染力を失ったか。これをもっと進化させることができれば……」
 ブツブツと呟く声を無視して、死体と言われた肉を見下ろす。
 小さな男の子だった。
 ほとんど骨だけの足、涙を流したまま見開いた緑の目、なんだか小さい頃のアーサーに似ているな、と思って、そう、思って、
 思い出した。
「アーサーじゃない」
「え?」
 レクイエムを押しのけて、下水道を駆け戻る。
 一山ほども溜まったトリンシック・トビューン、そのうちの何枚かにでかでかと載った顔、トリンシック市長、アーサー=ログレス。
 そいつの目は紫色だ。
 でも違う。
 アーサーは、俺の幼馴染のアーサー=ログレスは、緑の目だった。
「アーサーじゃない、アーサーじゃない」
「いったいどうしたんだね」
 後を追ってきたレクイエムに、古新聞を突きつける。
「こいつはアーサーじゃない、名前を騙った偽物だ」
「……なんだって?」
 レクイエムが珍しく慌てた仕草で、それを奪い取った。
 ふいに笑いたくなった、そうか、そうだ、もう我慢しなくてもいいんだ。
 げたげたげたと笑いが込み上げてくる、こいつがアーサーじゃないなら、じゃあ俺は言ってもいいんだ、ずっとずっと腹に貯めていたことを、大声で言ってもいいんだ。
 アーサーアーサーアーサー。
 俺はお前が大好きだったよ、そしてお前はこれからも変わらず俺の親友だ。
「───殺してやる!!」
 なぁお前、名前も知らない紫の目をしたお前、俺は、
「殺してやる、お前をきっと殺してやる!!」

 俺はお前が憎くて堪らない!!

 俺が叫んで顔を掻き毟るのを、レクイエムはそれは嬉しそうに、それはそれは愉しそうに笑って見ていた。

❖トリンシック・トリビューン 2015年1月4日
 【6歳男児行方不明 遊びに出たまま帰宅せず】
  トリンシック東地区に住むロディ=スミス君(6)が、遊びに出かけたまま行方不明になっていることがわかった。
  ロディ君は1月3日午後、友人3名と海岸で貝を拾うと言って家を出たが、夜半を過ぎても帰宅せず、心配した両親がガードポストへ訴え出た。
  友人たちの証言では夕方に東城壁裏手の浜辺で別れ、以後の足取りが掴めていない。
  トリンシックガードは密輸業者による誘拐も視野に入れ、市内の探索のほか、港に停泊した船の貨物も調査している。
  ロディ君は金髪に緑の目、紺色のチュニックを着用。
  もしロディ君と思しき人物を見かけた方は、トリンシック東ガードポストまでご連絡を。

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2016年8月7日(日)夜10時より
市政ストーン前集合
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