Bar 宵闇亭 TRINSIC OF THE DEAD ~Diary of Arthur~ 4 忍者ブログ
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7月21日
ここの羽ペンは柔らかすぎて、どうも使いづらい。
我々は───私とアルバート、レイ、メラニーの4人は、夕刻ライキュームに到着した。
といってもマッティカン氏のゲートのお陰で、移動自体は一瞬だったが。

昨夜は明け方までかかって、ようやく公園周辺の封鎖が完了した。
感染者の大半は囲い込みに成功したものの、数名は取り逃がした可能性が高い。
感染は……おそらく止まらないだろう。
今朝、市民にも事実を公表した。
やはり動揺は大きく、これからは感染の阻止と共に市民のパニックも抑えていかねばならない。
騎士団と衛兵には、これまでの経緯と今後の作業について詳しく指示した。
今日からトリンシックは門扉を閉ざし、外部との出入りを禁じる。
未感染者には一時的な離郷を勧めたが、やはり大半の市民は残るそうだ。
市民の避難が済み次第、市内は区画ごとにバリケードを築き、内部に潜伏しているだろう感染者の侵入を防ぐ。
不慮の事態にも備え、それぞれの持ち場には特に判断力に優れた指揮官を選んでおいた。
彼らならば、私の不在の間も市民を守り抜いてくれるだろう。
アルバートの容体はけして良くはない。
だが我々は、例の小瓶が予防薬あるいは解毒薬……つまり、ワクチンである可能性に賭けたのだ。
これはアルバートのたっての希望でもある。
アルバートは、確かにあの液体を口にしていた。
毒に耐性があるゆえの無謀だが、それがこうして我々の希望を繋ぐことになったのだから巡りあわせとはわからない。
トリンシックを救う為になるのなら、実験でも検体でも構わないと言ったアルバートに、ライキュームの研究者たちは───率直に言って、狂喜していた。
彼らはまるで新しい玩具に目を輝かせる子供のようだ。
マッティカン氏が私を同行させたのは、私をトリンシックから出す口実ではないかと疑っていたのだが、彼らの様子を見るにあれは本当の理由なのかもしれない。
確かに監視者がいなければ、果てしなく脱線していきそうな危うい雰囲気がある。
所長のイスレイン殿からして、感染者の組織に直接触ろうとする猛者なのだ(思わず張り倒して遠ざけねばならなかった)
ここへ来てまだほんの数時間しか経っていない。
だが挨拶もそこそこに採血だの調書だのと引き回されて、想像以上に気疲れしている。
もっとも、この程度アルバートの苦痛と覚悟に比べればたいしたことではないのだが……。
あれからアルバートは意識を失ったまま、高熱で苦しんでいる。
レイとライキュームの魔術師たちがあらゆる手を尽くして看護しているが、命の恩人でもある彼に、何もしてやれないことが口惜しい。
もっと私に能力があれば……。
───いや、つらつらと愚痴など書くのはやめよう。
今私がすべきことは、一刻も早くワクチンを作成することだ。
今日はもう休み、明日私にもできることをしよう。
トランメルの月よ、せめてアルバートの眠りを守りたまえ。
そしてトリンシックの市民たちが、少しでも安らかな夜を過ごしていますよう。

7月22日
この真実の学府は、眠りとは縁がないようだ。
昨夜顔見知りになった錬金術師など、私が寝る前とまったく同じ姿勢で同じ薬を延々と煮詰め続けていた。
他の人々も似たり寄ったりの顔色で目に隈を貼り付けているのを見るに、ここではこれが普通ならしい。
アルバートの様子は、昨日より少し落ち着いていた。
不思議な管に繋がれて少量ずつ血を抜かれてはいるが、レイが言うには代替に魔法で生成した擬似体液を注入し、それが一時的に鎮痛剤の役目も果たしているのだそうだ。
熱も微熱程度まで下がったようで、本当に良かった。
彼の体から抗体を取り出すことができれば、我々はこの病に勝利できる。
しばらく待ったが目覚めなかったので、先にイスレイン所長に面会を求め、改めて今後について話し合いをした。
やはり彼らは、治療薬よりむしろ感染者の体のメカニズムの方に興味があるらしい。
協力の対価として感染者の一部を譲るよう求められたが、トリンシックの現状を見ればそれはあまりに危険な好奇心だ。
昼を回るまで説得を繰り返し、やっとワクチンの完成後は感染者の体組織をすべて焼き捨てることに同意してもらえた。
その後メラニーから、研究書の暗号解読で進展があったと報告を受けた。
さすが世界一の頭脳が集う場所だ。
この早さで解読が進めば、病の解析もそう遠いことではないかもしれない。
トリンシックに残した緊急回線からも、興味深い情報が手に入った。
どうやら感染者たちは、炎に弱いらしいのだ。
痛みも持たず剣も槍も恐れない彼らだが、炎に巻かれている間は活動を停止してしまう。
確かに振り返ってみれば我々が感染者を処理してきた方法は、すべて焼却によるものだった。
それが本能ゆえなのか細胞の変質のせいなのかは不明だが、この習性はおおいに利用できる。
市の各地に炎を起こせるもの───例えば火炎薬など───を配備しておけば、一般市民が感染者に襲撃を受けた時も、これらを使って逃げ切ることができるかもしれない。
早速市の貯蔵庫を開け、物資を配布するよう各部署に通達した。
少しでも効果があればいいのだが……。
ゆっくりではあっても、ここに来てから事態は確実に良い方へ向いている。
窓の外では虫が鳴いている。
そういえばもうこんな季節なのだ。
忙しなく過ごしすぎて、日差しの強さや気温の変化を殆ど気に留めていなかった。
夏は夜、というのはどこの詩人の言葉だったろう。
夜はすることがないせいか、どうも詮無いことばかり書き連ねてしまう。
眠ることのないライキュームは常に人の気配が動いていて、それが逆に安心する。
ここはとても美しい。
耳を澄ませば虫の声に混じって噴水の涼やかな水音も聞こえる。
幾筋も空に登っていく蒸留の白い煙に、輝くルーンの光が七色に映えて……
あぁ、夏が来ている。

7月23日
研究書の解読が進んだことで、ワクチン作成への道が一気に開けた。
薬学の大家であるというオフィリオ氏は、ここライキュームでは珍しく常識的な人物に見える。
彼はこの奇病の構造を「ウィルスと呪いの結婚」と評した。
人の意志と体を腐らせ、怪物のごとき存在に変えてしまう死霊術。
次々と感染し、術者がいなくとも自動でそれらのプロセスを行うウィルス。
上記の二つが巧妙に絡み合って生まれたのが、この病のごとき呪い、呪いのごとき病だというわけだ。
アルバートが持ち帰った液体は、いわばワクチンであると同時に、呪いを打ち消す聖水でもあったのだ。
ここにきて、ようやく私にもできることが与えられた。
オフィリオ氏が指示するとおりに、感染者の組織や彼が用意した薬品にひたすら解呪の騎士魔法を唱え続ける。
半日過ぎる頃にはマナ切れでくたくたになったが、オフィリオ氏によれば思った以上の成果を得られているらしい。
彼は興奮すると呼吸がおかしくなるのか、やけにシュルシュルと音を立てていた。
錬金術師は薬煙で喉を傷める者が多いと聞く……どうか大事にして欲しい。
トリンシックの封鎖も、今のところ順調なようだ。
例の火炎による撃退はやはり有効で、バリケードの防衛にも大きな成果を上げたと報告があった。
……ただ、感染者の数はじわじわと増え続けている。
一刻も早く事態を収拾しなければ、やがて押し負けてしまうだろう。
夜、アルバートが目を覚ましたと聞いて会いに行った。
全身の噛み傷は腐敗こそしていないものの、血と生汁を滲ませて酷い状態だ。
そのくせまだ片方の目だけでにやけてみせようとするのだから、まったく始末に負えない。
───思えば私は、まだ彼にきちんと礼すら言えていなかった。
生きたまま肉を齧り取られる……それも鋭い獣の牙ではなく鈍い人の歯で、幾度も幾度も。
いったいどれほどの苦痛だったろう。
確かに彼はトリンシックに忠誠を誓ってはいたが、だからといって赤の他人のために身を投げ出すなど、そう簡単にできることではない。
感謝している。
どんな金銭でも購えないほどに感謝している。
彼の命と引き換えに、今の私の命があるのだ。
そう言葉を尽くして頭を下げた私に、アルバートはただ頷くだけだった。
それよりトリンシックのことを聞かせて欲しいと言われ、私は今の状況をなるべく詳細に説明した。
無駄な期待や心配は省き、事実と経過だけを語るよう心掛けたつもりだ。
アルバートは夢や希望に縋るタイプではない。
しかしだからこそ、どうして彼のような男が身を挺してまで私を庇ったのかが不思議だった。
理由を訪ねてみたが、金一封を狙って失敗したなどとぬけぬけと言う。
本当にそうならどれだけ良かったか!
それから短い間くだらない話をし、体がつらそうなそぶりが見えたので退室することにした。
私が背を向けた時、アルバートは確かに言った。

───あんたが誰か知っている、と。

イベント【TRINSIC OF THE DEAD】 

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次回のトリンシック市民会議
2016年8月21日(日)夜10時
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訓練施設内会議場にて開催

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蜘蛛城脱出大作戦!!

2016年8月7日(日)夜10時より
市政ストーン前集合
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