Bar 宵闇亭 貧乏市長物語 忍者ブログ
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❖トリンシック・トリビューン 2015年2月28日
 【市長記者会見 「ゾンビ事件」への対抗策を指示】
 2月28日午後、トリンシック市庁舎にて、アーサー市長が記者会見を行った。
 10名近い犠牲者が出たとされる今回の事件について、アーサー市長は「遺憾の極み。市民や聖騎士の命を無為に奪った犯人をけして許すことはできない。全力を挙げてこれに対応する」と発言した。
 ───今回の事件の首謀者は、もう特定できているのですか。
 既に目星はついているが、捜査の為にコメントは控えさせて頂く。
 ───市庁舎として、今後どのように対策なさるのですか。
 現在、押収した薬品類を詳しく調査している。犯人の目的がバイオテロであるのは明らかだ。以前同様ライキュームで対抗薬を作り、トリンシック全域に配布して薬害を未然に防ぐ。
 ───それまでの間、市民に危険はないのですか。
 警備体制を変更した。同時に、市民は各家に配布した冊子に従い日常生活に気をつけて欲しい。それが感染を防ぐことに繋がる。
 またアーサー市長は、聖騎士見習いの一部を昇格させ、聖騎士団に編入することを発表した。
 惨殺事件によって出た欠員を埋め、警備の強化を図る目的と思われる。

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 知識と経験を与えたのは失敗だった────
 かつてそうレクイエムが言っていたとおり、真相を掴んだ騎士団の動きはおそろしいほど早かった。
 今までちんたらと誘拐捜査をしていたのが嘘のように、続けざまに手を打って俺達の動きを封じてくる。
 あとはじわじわ追い詰められて、いずれ一人づつ、あるいは一網打尽に潰されるだけだろう。
 俺たちはとっくに積んでいる、そんなこと分かってる。
 悼ましげな表情で新聞の一面を飾る「アーサー市長」の顔を、俺はガリガリと掻き毟った。
 本物でもないくせに、よくもぬけぬけと、なぁ、お前は誰なんだよ、なんでアーサーを騙ってるんだよ、本当のアーサーはどこへ行ったんだよ、どうしてここに居るんだよ、なぁ、なぁ、なぁ!
 聞きたいことはたくさんあるのに、俺達はまだ一度も言葉を交わしたことがない、それどころか、こいつは俺のことなど知りもしない。
 不公平だよな?
 俺は自分の名前が思い出せない、子供の頃の思い出も、惨めな挫折の記憶も、こんなに鮮やかに残っているのに、俺は俺が誰だったかわからない。
 同じ、名前の無い者同士、もっと公平になろう、俺の不幸の分だけ、お前も不幸になってくれないと。
 あいにくこの男は市庁舎に篭もりきりで、常に騎士団に守られている、そこへ襲撃をかけるのはバカバカしいと、俺の腐っているかもしれない脳味噌でもわかる。
 かといって隙ができるまで待っている時間はない、もう黒い薬はライキュームへ送られてしまった、以前はどのくらいでワクチンを作られたっけ、3日、4日?
 薬自体以前とは進化しているから、もっと時間がかかるかもしれない、でもどっちにしろ、ワクチンが出来てしまえばすべておしまいだ。
 だから、その隙間を。
 奴らが一番油断する瞬間を、狙うしかない。


❖トリンシック・トリビューン 2015年3月7日
 【ワクチンの材料確保 8日、市長と共にトリンシックへ到着】
 3月6日午後、トリンシック市庁舎は、市民分のワクチンの材料が確保できたと発表した。
 トリンシック市は2月25日から、地下に潜伏していたテロ組織から押収した薬品をライキュームへ運び、対抗薬の開発に着手。
 ワクチンは3月2日に完成したが、希少な素材を使用するため大量生産が難しく、アーサー市長自らが各都市を周り、材料の確保に奔走していた。
 ワクチンの材料は、8日に複数の船便でトリンシックに到着する予定。
 トリンシック騎士団は、未だ潜伏を続けるテロ組織がワクチン配布を妨害する可能性を考え、都市警備を強化、到着する材料も冒険者を雇って厳重に護送する意向だ。

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「明日だ」
 俺はトリンシック・トリビューンを放り投げて、並ぶ仲間たちに言った。
「もう潜入の手筈は済んでいます」
 進み出た仲間が、自信ありげに答える。
 俺達の唯一だが最大のアドバンテージ、それはヒトと変わらない姿と知能だ。
「まだ情報は公開されていませんが、既に騎士団の大部分はワクチンを投与されているようです。彼らを狙うのは得策ではない。狙うなら……」
「ワクチンを護送する冒険者、だな」
 募集された冒険者の中に、数人の仲間を潜り込ませた。
 幸い騎士団の大部分は、避難させた市民の護衛にあたっている、奴らが出てくる前に、出来る限り冒険者を感染させる。
 ワクチンは作らせない。
 今の俺達では、また知性のない食い意地だけの化け物しか増やせないが、それで充分だ。
「数で押し切って騎士団を壊滅させ、バリケードを破り、市民を皆殺しにして、この街を滅ぼす」
 わかってる、ただの希望だ、そんな簡単にはいかないだろう、でも俺は、分からせたい、お前らに思い知らせたい。
 俺は、俺は、

 俺 は こ こ に 居 る。
 I'm in the Darkness.

 誰にも気付かれないまま消えたくない、一人闇の中で終わりたくない。
 明日ここへ帰ってくるという紫の目のアーサー、その目に絶望が浮かぶところを見たい、そうしたら俺は、今より少しだけ幸せになれる。
 もしこの手が届いたら、絞め殺す前に名前を聞こう、本当の名前を。
「トリンシックに死を、「アーサー」に死を!」
 俺を知れ、俺の憎しみを知れ。
 お前たちが明るい場所を歩く間、暗闇で育み続けた俺の心を!
 俺にはもうそれしかない、俺の望みは誰かの不幸でしか満たせない。
「死を、死を、死を!」
「レクイエム様の仇を!」
「この街に永遠の鎮魂歌を!」
 薄暗い部屋に響く呪いの声、俺の憎悪に感染した、この街を恨まずにいられない可哀想な者たち、さぁ一緒に行こうじゃないか、あいつらを少しでも多く不幸にしてやるために。

 この暗がりから這い出して。

 

イベント【TRINSIC OF THE DEAD 2 ~ From Darkness ~】

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❖トリンシック・トリビューン 2015年2月23日
 【トリンシック東南部が封鎖 詳細不明】
  2月23日の早朝から、トリンシック東南部の数カ所が騎士団により封鎖されていることが分かった。
  現場には立ち入り禁止のロープが張られ、見張りの騎士も付いて物々しい雰囲気とのこと。
 しかし今のところ市民はもちろん、報道関係者の接近も禁じられており、詳細は一切不明。
 昨日起きた聖騎士大量虐殺事件との関連も含め、関係者の発表が待たれている。

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 聖騎士たちを殺したのは、明らかに失敗だった。
 ほとぼりが冷めるまで身を潜めよう、そう反省したのも束の間、まさか翌日にはこの下水道へ騎士団が突入してくるなんて、夢にも思わなかった。
 俺とレクイエムは、まさにほうほうの体で逃げ出した。
 捕まらずにあの場を脱出できたのは、奇跡のようなものだ。
 迷路のような通路を這いまわり、ようやく騎士団の手が回っていない出口を見つけた時には、手も足もくたくたになっていた。
「愚かな真似をしたものだな」
 レクイエムは俺の失態を許さなかった。
「あの薬が彼らの手に渡ったら、なにもかも台無しだ! せっかく上手いこと目を逸らしていたのに、自分から証拠を与えに行くなんて。君の脳味噌は無事だと思っていたが、どうやら間違いだったようだ」
 あまりに前触れのない襲撃で、何一つ持ち出せていない、ここに持ち込んだ機材、作り貯めた黒い薬、大量の死体、全て置き去りだ、確かに物証には事欠かない。
「わかってる、浅慮だったのは謝る、だけど俺は全部殺したし、誰にも見られてなかったはずだ!」
 いったいどうしてここがバレたのかわからない、仲間の情報ではあいつらは別件にかかりきりのはずだったのに。
 俺は爪をギリギリ噛みすぎて、危うく指ごと噛みちぎってしまうところだった。
「……出直しだな」
「え?」
 レクイエムの声は冷たかった。
「もうトリンシックに留まるのは危険だ。ここを離れる。といっても港も門も封鎖されているから、外から手を回してもらわなければならないがね」
 立ち去る? 出て行く? また?
「ま、待ってくれよ、せっかくここまできたんだ、仲間だってできた、それを」
「こんな僅かな人数で何ができる? 根を張る前に抜かれたのでは何にもならない。私達の計画は失敗したんだ」
 レクエイムは俺に取り合わず、出口の鍵を開ける。
「すぐ外に連絡を取る。それまでは誰か仲間のところに身を寄せるしかないな」
 そんな簡単に諦められるのか、お前はこの街が憎いんじゃないのか、今までの数ヶ月が無駄になって悔しくないのか、あいつらに一泡吹かせたくないのか。
 また負け犬のように、惨めにこの街から逃げ出すのか?
「────いやだ」
「いい加減にしたまえ、誰のせいだと……」
 レクイエムは続きの罵倒を言えなかった。
 かわりにゴボゴボと血の泡を吐き出す。
 俺の手は痩せこけた胸を突き抜けて、脈打つものを掴み出していた、右手に力を込めて、それをグチャリと握り潰す。
「俺はもう、逃げない」
 レクイエムの死体を下水の中に蹴り落として、俺は一人で外に出た。



 レクイエムは騎士団の連中に殺された。
 そういうことにした。
 文字通り血を分けた仲間たちは、ひっそりと俺を匿い、俺の話を残らず信じてくれた。
 もともと憎しみしかない連中だ、俺が言い出すまでもなく、復讐しようという話になるのは当然だった。
 何人かはいつの間にか消えていたが、仕方ない、そういう奴はどこにでもいる。
 どっちにしろレクイエムの水薬がなくなった今、俺達のように適応した者でも、そう長くは正体を隠していられない。
 終わる前に、消える前に、俺は思い知らせたいんだ。
 この街に、そして、あの男に。
 まだ何もしないうちに、誰にも知られないうちに、こんな気持ちのまま、追い立てられるなど我慢できない。
「どうして奴らが下水道のことを突き止めたのか、わかりましたよ」
 騎士団の動きを探らせていた仲間の一人が、ひっそりと俺に耳打ちした。
「ダイイング・メッセージです。……聖騎士の一人が、息絶える前に何か書き残していたとか」
 そうか、と答えるのも億劫だった。
 だから嫌なんだ、騎士なんてものは、どこまでも忠実で、誇り高くて、眩しすぎてうんざりする。
「壊そう」
 俺は呟く。
「壊しましょう」
 いくつもの声が唱和する。
 命に糧が必要なら、俺達の命を燃やすのは、この真っ黒な感情の他にない。

❖トリンシック・トリビューン 2015年2月24日
 【「ゾンビ事件」再び 犯人は旧下水道に潜伏か】
  2月24日、トリンシック市庁舎は、今年1月から続いた一連の失踪事件、及び先月22日に起きた聖騎士虐殺事件を、昨年7月の「ゾンビ事件」関係者の犯行と断定したと発表した。
  また犯人は少なくとも数ヶ月、トリンシック港地区地下の旧下水道内に潜伏していたことが分かった。
  昨日発見された旧下水道は、トリンシック建設時に建てられたもので、地図からも消されていたため捜査上の盲点となっていた。
  突入した調査部隊の報告によると、内部ではおぞましい実験が行われていた形跡があり、犯人はすでに逃走していたとのこと。
  現場で採取された残留物はライキュームへ運ばれ、入念に分析されるという。
  市としては、再び集団感染事件に発展することだけは、なんとしても避けたい意向だ。
  また捜査本部は、各地の検問に不審な人物が現れないことから、犯人はまだ市内に潜伏しているものと推定。
  旧下水道が伸びている港区、東区の全域、及び北区の一部を封鎖すると発表した。
  トリンシック市庁舎は、引き続き市民にくれぐれも外出を控えると共に、何か不審を感じたらすぐにガードへ通報するよう呼びかけている。

イベント【TRINSIC OF THE DEAD 2 ~ From Darkness ~】

── Season 1 Story ── Diary of Arthur
~Diary of Arthur~ 1
~Diary of Arthur~ 2
~Diary of Arthur~ 3
~Diary of Arthur~ 4
~Diary of Arthur~ FINAL

❖トリンシック・トリビューン 2015年2月16日
 【密輸組織、一斉検挙 連続誘拐事件に関与か】
 トリンシック騎士団は2月16日深夜、密輸や誘拐に関与した疑いで、商人に偽装してトリンシック港に停泊していた犯罪グループの一斉検挙を行ったと発表した。
 すでに25名が拘束され、所有する船舶や倉庫からは大量の武器や資材が押収されている。
 問題の組織は、近年バッカニアーズデンやニュジェルムで勢力を広げている海賊と取引があり、武器や兵器の密輸のほか、トリンシックで頻発している失踪事件にも関わりがあると見られていた。
 容疑者たちはトリンシック監獄に収容後、余罪について詳しく調査される。 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ある男は言った、自分を許さなかったこの街が憎い、力を持つものが好きに振る舞って何が悪いのかと。
 ある女は言った、愛しい男を死なせたこの街が憎い、名誉など命と較べてなんの価値があるのかと。
 立場も年齢も言い分も様々な、彼らにただ1つ共通するのは、トリンシックに憎しみを抱いているということ。
 些細なものでも構わない、憎悪は伝染する、俺の体を巡った黒い一滴が、彼らの小さな不満を際限なく肥大させる。
 時に偽りの情報を、時に別の誰かを囮に差し出し、俺達は執拗な捜査を巧みに掻い潜り続けた。
 少しづつ増える適応者、あらゆる場所に紛れ込む俺達の悪意、まさしく地下に根を張るように、この街を病ませる毒を広げていくのは楽しかった。
 連日、深夜まで明かりの消えない市庁舎の窓を見ながら、俺は静かに夢想する。
 いずれこの街に、抱えきれないほどの憎悪が溢れかえった時。
 その時こそトリンシックは、内側から決壊する。
  
 
 
「───そこで何をしている?」
 隠し扉の前で聖騎士の一人に見つかってしまったのは、完全に油断からだった。
 ピカピカのプレートメイル、絹のチュニュック、そしてトリンシックの紋章を染め抜いた紫の盾。
 俺は一瞬、ほんの一瞬、その輝かしい姿に言葉を失ってしまい、それは相手に致命的な不信感を与えるのに十分だった。
「こんな夜更けに出歩くなど、どんな理由あってのことだ? ……いや、今は答えなくていい、 幸いパラディン島はすぐそこだ。詳しい話は、我々の詰め所でゆっくり聞かせてもらおう」
 思えばこの時点で決断しておけば良かった。
 連れて行かれた立派な建物は、深夜にも関わらず十数人もが賑やかに過ごしていた。
 どれだけあの制服に憧れただろう、どれだけこの島に立つ日を夢見ただろう。
 聖騎士たちはみんな若々しく、未来があり、理想に燃えて、何もかも俺とは違っていた、
 あくまで礼儀正しく、だが高圧的に質問を繰り返す男。それを横で諌め、呆けた俺を気遣う女。見張り台に立つ男女が笑い合う声。部屋の隅で誇らしそうに盾を磨く男。仮眠だろうか、離れたベッドで豪快にいびきをかく男。
 ……あーあ、そうだな、そうだろうよ。
 
 し あ わ せ な ん だ な ぁ 、 お ま え た ち は

 腹の底から、ふつふつと煮え立つような気分だった。
「どうしたの、もしかして具合でも悪いの?」

 優しく触れてきた女の喉笛に、思い切り喰らいつく。
 すぐさま叫び声を上げて飛びかかってくる男は、力任せに首を捩じ切って、腰に下げた高そうな剣を奪い取ってやる。
 俺は不幸だから。
 俺はずっと暗がりを這いずって、何一つ報われず惨めなままだから、お前らの眩しさに耐えられない、俺が行けなかった場所で笑うお前らが、羨ましくて妬ましくて、憎くて殺したくてたまらない。

 それからはもう、喜劇のように。
 次々駆けつける騎士たちを片っ端から斬りつけて突き刺して細切れにして引き裂いて叩き潰して噛み千切って引きずり出して踏みにじって。
 幸せな奴は、幸せなまま死ねばいい。
 天井までベチャベチャに汚す血と臓物の中で、俺はゲタゲタと笑った、なんだ、なあああんだ、全然大したことないじゃないか、こんなザマで、一体何を守れるっていうんだ?
 昔の俺なら、軽く100回は殺されただろう、でも今の俺は刺されても切られても痛みはなく、傷はみるみる治り、腕力は化け物じみて強くなっていた。
 いや違う、もうとっくに化け物なんだっけ。
 俺は自分の腐り始めた腕を見て、ひどく虚しくなった、レクイエムの水薬を飲まないと、俺達の表皮はすぐに腐りだしてしまう。
 聖騎士たちの中に、臆病者は一人もいなかった。
 最期まで剣を握り締めた、愚かだが誇り高い死に様だった、俺にはとてもできないような。
 あのアーサーでない誰かは、悲しんでくれるかなぁ。
 真っ赤な部屋を後にして、とぼとぼと暗がりへ帰りながら、俺はそのことだけが気がかりだった。

 
 
❖トリンシック・トリビューン 2015年2月22日
 【パラディン島に襲撃 夜勤の聖騎士が全員惨殺される】
  連日続く失踪事件に怯えるトリンシックで、またも大事件が発生した。
  本日未明、パラディン島聖騎士詰め所にて夜勤を行っていた聖騎士10数名が、全員惨殺体となって発見された。
  現場は凄惨を極め、被害者たちは「何か」と激しく争った形跡があるという。
  現在パラディン島は封鎖され、詳しい調査が行われている。
  アーサー市長は夕刻から行われた葬儀に参列し、その後王都での評議会へ赴いた。
  代理人として記者会見を開いたヘラルドのスペンサー氏によると、発見された遺体には昨年トリンシックで起きた大規模呪術感染事件、通称「ゾンビ事件」との関連が見られるという。
  対策本部は今夜からトリンシック中に戒厳令を敷き、市民の外出、及び城塞内の出入りを厳しく制限するとのこと。
  一刻も早い事件解決が待たれる。

  以下、死亡者名簿(アルファベット順)
    アリシア=シルバーリーフ(19)
    バルド=テイラー(24)
    カール=ローエン(22)
       :
       :
    ジョン=バルフォア(21)

イベント【TRINSIC OF THE DEAD 2 ~ From Darkness ~】

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❖トリンシック・トリビューン 2015年1月6日
 【水夫が1名失踪 事故の可能性も】
  1月6日午後8時頃、トリンシック港に停泊中の「青の貴婦人号」の乗組員1名が、出港の時刻になっても船に戻らず、船長から捜索願いが出された。
  問題の乗組員はウォレス=レイダー氏(46)
  失踪が発覚する30分前には港で姿が確認されており、トリンシックガードは事故の可能性もあると見て、慎重に捜査を進めている。

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 レクイエムはこの街をどうにかしてやりたいらしい。
 もちろん悪い意味でだ。
 「以前の事件は、本当に偶然でね」
  俺の腕を傷つけて、ゆっくり滴る妙に黒っぽい血を採取しながら、レクイエムが言う。
 「実験途中の一匹が逃げたせいで、思わぬ集団感染が起きてしまった。予想以上の被害が出たのは結構だが、逆に警戒心を抱かれて動きづらくなったし、彼らに知識と経験を与えたのも失敗だった」
 だらだらだらと流れ続ける血、最近ようやく気づいた、俺は痛みを感じない。
 しかも傷もやたら早く治るもんだから、レクイエムは何度も何度も、まるで髪でも梳くように、俺の腕をナイフで撫で続けなければいけなかった。
 「あれで我々も学んだよ。腐った脳味噌と食欲しかない化け物ではダメなんだ。もっと密かに、もっと理知的に……もっと狡猾にならないと」
 やがてフラスコ一杯に溜まった、ほとんどタールのように嫌な色をした血を、レクイエムはうっとりと眺めた。
 「いい色だ、これならきっとより素晴らしい薬が───他人の心まで黒く腐らせるような、暗黒の一滴が作れるだろう」
 その眼差しは狂気そのもの、このキチガイ野郎に一体何があって、こんなにトリンシックを恨むはめになったのかは知らないし、知りたくもない。


 忘れられた下水道というのは、潜むにはもってこいの環境だった。
 数少ない出入口は殆ど人目に触れず、頑丈な石組みは、中でどれほど泣き喚こうが叫ぼうが、殆ど外に漏れることはない。
 俺達は奴隷商人から買うだけでなく、身元の探しにくいジプシーや冒険者はもちろん、時には街中から人を拐かした。
 そうやって連れ込んだ連中は、レクイエムの惨たらしい実験に使われる。
 多分昔の俺なら、その場で吐いたり目を覆ったりしただろう。
 でも今の俺に大切なのは、これがいずれあの紫の目の男を苦しめることに繋がるという一点しかない。
 俺はむしろ喜んで協力した、進んで血を流し、人を攫い、証拠を消して、目の前でヒィヒィ泣く美味そうな肉を食い散らかしたい衝動すら我慢した。
 真っ黒な薬を注がれた連中の反応は様々だ。
 内臓ごと吐き戻す奴、狂い死にする奴、生きたまま腐って、アウアウ呻くしかできなくなる奴。
 そしてごくごく稀に、【適応】する奴。
 適応者は、普通の人間のように知性を保つことができた。
 奴らは一も二もなくレクイエムの話に共感し、賛同し、俺達の追従者になった、あんまり簡単で、空恐ろしいくらいに。
 洗脳でもしているのかと聞くと、すべて君のお陰さ、とわけのわからない答えが返ってきた。
「ウィルスは呪いと結びつき、他人に伝染させる。最初に選んだのは狂気だった、でもこれは失敗した。……今、私達が広めているのはなんだと思う?」
 ふふっとレクイエムは笑う、内緒話をする子供のように。

「憎悪だよ」

 それで俺は、ようやく理解した。
 俺はずっとこの故郷が憎かったんだ。
 俺を受け入れなかった、俺だけを認めなかった、俺の友達を奪った、このトリンシックが。
 滅んでしまえと、願うくらいに。

❖トリンシック・トリビューン 2015年1月19日
 【連続失踪事件に続報 4人目の犠牲者か?!】
  トリンシック市庁舎は今日、再び行方不明者が出たと発表した。
  行方が分からなくなっているのは、ケッグ・アンド・アンカーのウェイトレス、アンジー=デイビスさん(25)
  17日の深夜に仕事を終えて店を出たが、翌日無断欠勤したのを店長が不審に思い、ガードポストへ連絡した。
  アンジーさんが家に戻った形跡はなく、帰宅途中に何らかの事件に巻き込まれたものと思われる。
  今月頭に起きた【ロディ君行方不明事件】に続き、これで市民の失踪は4件目。
  トリンシックガードは、犯罪組織による誘拐とみて捜査を続けているが、犯人につながる手がかりがまったく見つからず、捜査は混迷を極めている。

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❖トリンシック・トリビューン 2014年12月28日
 【都市協議会 各都市に1100万gpの寄付】
  12月28日に王都にて開催された評議会で、ブリテインのシエロ市長より、都市協議会名義で各都市に1100万gpの寄付を行うと発表があった。
  出資者の名は伏せられているが、先日行われたレアフェスタで財産の一部を処分した富豪からのものとされている。
  聖騎士団設立で資金難に喘ぐトリンシックには、これ以上ない朗報だ。
  出立時は暗い顔で、他都市への借金の可能性も匂わせていたアーサー市長。
  「これで安心して年越しができる」と、満面の笑みでの帰還となった。

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 レクイエムが持ってくる古新聞を読まされるたび、俺の中で何かが重く沈殿していく。
 アーサー、聖騎士団が復活したんだって? おめでとう、今幸せか?
 アーサー、大金が転がり込んだんだって? おめでとう、今幸せか?
 アーサー、アーサー、だけど俺は幸せじゃない、お前が明るいところで笑ってる間、俺は相変わらず暗いところで、ただわけのわからない狂人に妙なものを飲まされて、無気力に生きてるだけだ、なぁアーサー。
 俺はどこで間違えたんだ?
 お前に頼ってトリンシックで出直そうなんて思ったのがいけなかったのか?
 あの日お前に会おうなんて思わなければ、俺は今こんな目に合わずにいられたんじゃないのか?
 言っていいかアーサー、俺は今すごく酷いことをお前に言いたい、でもお前は俺の一番の友だちだったから、誰も捕まえられない俺に最初に捕まってくれるのはいつもお前だったから、だから俺は我慢してるんだ。

 ここはトリンシックのずっと地下、誰も覚えてないような元下水道だとレクイエムは言った。
 連れて行かれた古びた階段の上には、確かに半ば朽ちた蓋があって、その隙間からほんのすこしだけ空が見えた。
 光だ。
 昔は当たり前のように浴びていたのに、今はどんな温度かも忘れてしまった光だ。
 レクイエムは上に出てみてもいいと言う、君は前よりずっとマシな姿になったからと。
 なぜかはよく分からない、でも最初の頃自分でも気味悪いほど爛れめくれていた俺の皮膚は、今は確かにマシになってきていた、だからといって、俺はどうにも決心がつかなくて、日がな一日、あるいは何日も、その下に突っ立っていた。
 そこへコトンと何かが落ちてきた。
 綺麗な虹色の貝殻だ、そういえばトリンシックへ戻ったのに、俺はまだ一度も海を見ていない。
 見上げていた蓋がズリズリ動いて、にゅっと細い足が生えた。
 白くて柔らかそうな、強烈に美味そうな、素晴らしいごちそう。
 どういうわけかそろりと降りてきた小柄な生き物に、俺は脳味噌が反応するより早く飛びついて、下に引きずり下ろしていた。
 むしゃりと一噛みすれば、信じられないほどジューシーな味がした、肉が、久々の肉がものすごい叫びをあげて壁中にわんわんと反響するが、気にせずにむしゃり、むしゃりと齧りついていく。
 ああああ、美味しい美味しい美味しい、どうしてこんな美味しいもののことを忘れていたんだろう。
 だが何回か食い千切ったところで、急に肉は不味くなってしまった。
 無理やり食べようとしても、ちっとも食欲が湧いてこない。
「死体では意味がないんだ。君たちの食欲は、感染拡大の為の擬似欲求にすぎないからね」
 いつの間にかレクイエムが後ろにいた。
「やはり君のウィルスは特別だな。感染の兆候が見られない……定着と引き換えに無差別な感染力を失ったか。これをもっと進化させることができれば……」
 ブツブツと呟く声を無視して、死体と言われた肉を見下ろす。
 小さな男の子だった。
 ほとんど骨だけの足、涙を流したまま見開いた緑の目、なんだか小さい頃のアーサーに似ているな、と思って、そう、思って、
 思い出した。
「アーサーじゃない」
「え?」
 レクイエムを押しのけて、下水道を駆け戻る。
 一山ほども溜まったトリンシック・トビューン、そのうちの何枚かにでかでかと載った顔、トリンシック市長、アーサー=ログレス。
 そいつの目は紫色だ。
 でも違う。
 アーサーは、俺の幼馴染のアーサー=ログレスは、緑の目だった。
「アーサーじゃない、アーサーじゃない」
「いったいどうしたんだね」
 後を追ってきたレクイエムに、古新聞を突きつける。
「こいつはアーサーじゃない、名前を騙った偽物だ」
「……なんだって?」
 レクイエムが珍しく慌てた仕草で、それを奪い取った。
 ふいに笑いたくなった、そうか、そうだ、もう我慢しなくてもいいんだ。
 げたげたげたと笑いが込み上げてくる、こいつがアーサーじゃないなら、じゃあ俺は言ってもいいんだ、ずっとずっと腹に貯めていたことを、大声で言ってもいいんだ。
 アーサーアーサーアーサー。
 俺はお前が大好きだったよ、そしてお前はこれからも変わらず俺の親友だ。
「───殺してやる!!」
 なぁお前、名前も知らない紫の目をしたお前、俺は、
「殺してやる、お前をきっと殺してやる!!」

 俺はお前が憎くて堪らない!!

 俺が叫んで顔を掻き毟るのを、レクイエムはそれは嬉しそうに、それはそれは愉しそうに笑って見ていた。

❖トリンシック・トリビューン 2015年1月4日
 【6歳男児行方不明 遊びに出たまま帰宅せず】
  トリンシック東地区に住むロディ=スミス君(6)が、遊びに出かけたまま行方不明になっていることがわかった。
  ロディ君は1月3日午後、友人3名と海岸で貝を拾うと言って家を出たが、夜半を過ぎても帰宅せず、心配した両親がガードポストへ訴え出た。
  友人たちの証言では夕方に東城壁裏手の浜辺で別れ、以後の足取りが掴めていない。
  トリンシックガードは密輸業者による誘拐も視野に入れ、市内の探索のほか、港に停泊した船の貨物も調査している。
  ロディ君は金髪に緑の目、紺色のチュニックを着用。
  もしロディ君と思しき人物を見かけた方は、トリンシック東ガードポストまでご連絡を。

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2016年8月21日(日)夜10時
出雲トリンシック パラディン島
訓練施設内会議場にて開催

イベント予定
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蜘蛛城脱出大作戦!!

2016年8月7日(日)夜10時より
市政ストーン前集合
詳細は コチラ
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Aiolite -アイオライト-
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自己紹介:
Ultima Online IZUMOシャードにて
フェルッカ・デスパイスを不法占拠し
Bar宵闇亭、絶賛閑古鳥営業中!
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